第38回神奈川県社会人サッカー選手権大会 [決勝:日本工学院F・マリノス VS 東邦チタニウム] |
ゴールライン沿いでファインダーを覗いていると、このピッチに若干の勾配があることに気づく。 保土ヶ谷公園サッカー場。
神奈川のサッカーシーンにおいて欠かすことの出来ないこのサッカー専用球技場は、小さいながら屋根付きのメインスタンドを備え、ピッチはグリーンの天然芝で覆われている。
同じく横浜市内に存在する横浜国際総合競技場、三ツ沢公園球技場がJリーグを彩る舞台であるとすれば、この保土ヶ谷公園サッカー場は地域リーグや県リーグといったアンダーカテゴリーのサッカーリーグを彩る舞台だとも言えるだろう。
神奈川県社会人サッカー選手権大会は、天皇杯出場という県リーグ所属チームにとっての夢世界に可能性をつなぐトーナメント大会であるのと同時に、その優勝チームには毎年10月に開催される全国社会人サッカー選手権の関東予選出場権が与えられ、大会の1次トーナメントに出場する県3部リーグ上位チームにとっては決勝トーナメント進出することが新年度の県2部リーグ昇格をも意味する。
東邦チタニウムと日本工学院F・マリノス。
実業団チームと学生チーム、社会人サッカーの世界において対照的とも言える両チームにとって、この決勝はどんな意味を持つものであったのか。
その野心も隠せないほどに若い19歳、20歳の学生選手だけで構成された日本工学院F・マリノスは、個々の技術が高く、運動量豊富なその戦いぶりから、このカテゴリーにあってはどんな相手であっても簡単なゲームをさせることを許さない。 「社会人チームは巧い選手が多いです、でも今日は僕たちの方が勝ちたい気持ちが強かったかも知れませんし、相手が作った隙の時間帯をつけたかなと…」 そんな若武者たちを相手にした東邦チタニウムは、80年代から90年代にかけて、当時のトップリーグでもあった日本サッカーリーグにも所属した実業団の名門で、昨今はその戦いの場を関東リーグとしてきたチームである。 ボールを保持し、サイドを有効に使いながらゴールに迫る日本工学院F・マリノスに対して、1対1の局面で、あるいはそれを2対1、3対1という守備側に有利な状況に持ち込み、それに激しく抗う東邦チタニウムという試合構図は、前半よりも後半、後半序盤よりも試合終盤と言った具合で、徐々にその傾向を強くしていったものの、結果的に勝敗を決したのは、東邦チタニウムが試合序盤に得たCKから奪ったゴールであった。 おそらくこの試合を部分的に切り取れば、日本工学院F・マリノスのゲームであるように見えていただろう。しかしその一方で、守備に追われているようにすら見えた東邦チタニウムの戦いぶりが、勝利を得るために自ら選んだ必然策であったと捉えることも出来る。 「こういうピッチコンディションという事もあり、本来の戦い方とは少し異なる形にはなったが、選手全員が勝ちに拘る事に徹し、ピッチで表現してくれた。その中で先制点を奪ってそれを守り切るというのは我々の1つのチームスタイルでもある」 ゲームを通してゴール前で身体を張り続けたキャプテン、佐々木一磨選手はこう話してくれた。 「学生チームは運動量が多くタフですが、僕らはそれに対して大人のサッカーで対抗しようと思っていました、まず守ってカウンターというところにポイントを置いてやりましたけど、時間を気にする余裕がないくらい最後まで全く気を抜くことは出来なかった」 試合を勝利で終えた東邦チタニウムの選手たちから、この大会に優勝した喜びよりも、優勝出来たことに対する安堵感の方がより強く感じられたのは、彼らが自らに課したミッションに対し、どれほど真摯に向き合っていたのかが、このコメントにも現れているようにも思う。 第38回神奈川県社会人サッカー選手権決勝、1-0東邦チタニウム優勝。 とは言え、彼らが戦う舞台は遠目にはなかなか確認することの出来ない場所にあると言ってもいい。東邦チタニウムが天皇杯神奈川県代表になる為には関東リーグや関東大学リーグ、J3クラブといった強豪をあと3回破らなくてはいけないし、日本工学院F・マリノスが出場権を得た全国社会人サッカー選手権関東予選については、そもそもその本大会自体の存在が一般にはほとんど知られていない。 私は、保土ヶ谷公園サッカー場のゴールライン沿いで、ファインダー越しにピッチの勾配を確認することが出来たが、それと同じように、この記事が彼らの戦いの舞台を覗き込むファインダーとなることを祈って、今回のレポートを締めようと思う。 ☆決勝戦写真☆ [文・写真 毛利 龍] |